少年野球のピッチャーがイップスかも?急にストライクが入らない・近い距離で投げられない子への向き合い方|投手専門コーチが解説

「急にストライクが入らなくなった」「近い距離なのに投げられない」。——お子さんのそんな様子に、不安を感じていませんか。
こんにちは。投手専門オンライン野球塾・投Laboの野村亮太です。独立リーグ(地域のプロリーグ)で投げてきた元左投手です。
じつは私自身も、高校のときにイップスになりました。だからこそ、この記事をお子さんのために書きたいと思いました。
結論:
- イップスは「気持ちの弱さ」ではありません。研究でも認められた、体と心がからんだ現象です。
- きっかけは、私の見てきた範囲では「悪いイメージ」が多いです。だから「びびるな」「気持ちで負けるな」は逆効果になりやすいです。
- まずは責めないこと。そして体を整え、本人が投げやすい距離から少しずつ戻していきます。あせりは禁物です。
この記事でわかること
- イップスとは何か(気持ちの弱さではない、という研究の話)
- 少年野球のピッチャーに出やすいサインと、やってはいけない声かけ
- 家でできるチェックと、投球を取り戻していく練習の順番
イップスとは?「気持ちの弱さ」ではありません
まず、いちばん大事なことをお伝えします。
イップスは、気持ちの弱さや、練習不足ではありません。
イップスとは、体が思ったとおりに動かなくなる現象のことです。投げようとすると、手が固まったり、勝手に力んだりします。
研究でも、イップスは2つの面がつながった現象だと考えられています。
1つは「体の動きの問題(神経のはたらき)」。もう1つは「気持ち・プレッシャーの問題」です。
この2つは、はっきり分かれているのではなく、地続きにつながっている。海外の研究チームは、そう考えています(Smith ら, 2003)。
体の要因が強い子もいれば、気持ちの要因が強い子もいて、両方が関わる子もいます。だから「メンタルを鍛えれば直る」という単純な話ではないのです。
少年野球の年代でも、イップスは起こります。
高校の男子野球選手285人を調べた研究があります。そのうち10.2%(約10人に1人)が、イップスの症状を報告しました(Maruo ら, 2025)。
とくにピッチャーに多く、近い距離ほど強く出やすいことも分かっています。
これは小・中学生の割合を示した数字ではありません。それでも「投手に多い」「近い距離で出やすい」という傾向は、覚えておくと役に立ちます。
まずは「うちの子だけじゃない」「気合の問題じゃない」。ここから始めましょう。
こんな様子は、イップスのサインかも
イップスは、ある日とつぜん、いつものボールが投げられなくなることが多いです。
具体的には、こんな様子が続いていないでしょうか。
- 急にストライクが入らなくなった
- 近い距離なのに、うまく投げられない
- ボールを引っかけたり(手前にストンと落ちる)、すっぽ抜けたり(大きく上や横へそれる)が増えた
- 練習ではまだ投げられるのに、試合になると崩れる
現場から: 私が中学生のころ、同級生にとても良いピッチャーがいました。その子がイップスになり、ボールを引っかける・抜けるが増えて、普段のボールが投げられなくなりました。特別な様子から始まったわけではありません。
先ほどの研究にも、こんな報告があります。症状は、投げる距離やプレッシャーで強く出やすい、と。
近い距離だけ苦手な子もいれば、試合でだけ崩れる子もいます。まずは「どんなときに出るか」を、落ち着いて見てあげてください。
なぜ起きる?きっかけは「悪いイメージ」
では、なぜイップスになるのでしょうか。
私が現場で感じるのは、きっかけの多くが「悪いイメージ」だということです。
現場から: イップスは、投げるときに「悪いイメージ」を持つようになってから始まると、私は感じています。きっかけはさまざまです。打たれた、大きな失敗をした、厳しい環境でミスをして怒られた。良いイメージがきっかけになることは、まずありません。
研究でも、大事な場面での失敗やプレッシャーが、きっかけの1つとして挙げられています。いっぽうで、はっきりしたきっかけが見当たらない選手も少なくありません(Aoyama ら, 2021)。
もう一つ、見落とされがちなきっかけがあります。フォームを大きく変えたことです。
投げ方を変えたことをきっかけに挙げた選手も、同じ研究にはいました。良かれと思ったフォーム改造が、きっかけの1つになることもあるのです。
大切なのは、原因を1つに決めつけないことです。体の使い方と気持ちは、からみ合っています。だから、片方だけを責めても、うまくいきません。
🔍 家でできるチェックリスト
「これはイップスかな?」と迷ったら、家でも様子を確かめられます。
責めるためではなく、状況を落ち着いて知るためのチェックです。次の3つを見てみてください。
- どの距離で崩れるか:近い距離(5〜7メートル)と、遠い距離(15メートルくらい)で、10球ずつ投げてみます。どちらで乱れるかを記録します。近い距離だけ苦手な子は少なくありません。
- 練習と試合で違うか:練習では入るのに、試合や人が見ている場面だけ崩れるか。1週間、様子をメモします。プレッシャーで強く出るのは、イップスの特徴の1つです。
- 痛みがあるか:引っかかる感じと一緒に、肩やひじに痛みがないか、本人に毎回聞きます。1球でも痛みがあれば、その日は投げるのをやめて休みます(痛みが続くときは、あとの「安全注記」を読んでください)。
これで「どんなときに、どう崩れるか」の当たりはつけられます。
ただ、崩れの正体まで家庭で見きわめるのは、簡単ではありません。
同じ「投げられない」でも、体の使い方のクセなのか、気持ちの影響が大きいのかで、向き合い方が変わるからです。
まずはスマホで投球を動画に撮っておきましょう。あとで落ち着いて見返せます(→スマホでのフォーム動画の撮り方)。
🏋️ 投球を取り戻していく練習の順番

ここからは、家でできる練習です。あせらないことを、いちばん大切にしてください。
私自身、高校でイップスになりましたが、数か月後にはある程度投げられるようになり、30歳の今も投げ続けています。戻り方には個人差がありますが、私の場合はこうでした。
私が戻ったときの順番は、①体を整える → ②動作を確かめる → ③投げやすい距離から、でした。これを家でできる形にしたのが、次の練習です。治療法として決まったものではなく、私の経験にもとづく例です。
① 体を整える(力を抜く準備)
- やり方:肩をゆっくり大きく回し、深呼吸をする。投げる前に、体の力みをぬく。
- 回数:肩回し10回+深呼吸30秒が目安。
- 親のチェック:肩や首に、余分な力が入っていないか。
- できているサイン:本人が「ちょっと楽になった」と感じられる。
② 動作をゆっくり確かめる(シャドー)
- やり方:ボールを持たず、投げる動きだけをゆっくり行う。速く振らず、形を確かめる。
- 回数:10回×2セットが目安。
- 親のチェック:うまくいっていた頃の動きに近いか。無理に大きく変えていないか。
- できているサイン:力まず、なめらかに振れる。
③ 一番投げやすい距離から投げる
- やり方:本人が「これなら投げられる」という距離を探す。近いのが苦手なら、少し離れてもよい。
- 回数:10球を、力を入れずに投げる。
- 親のチェック:距離や球数を、こちらから増やしていないか。
- できているサイン:「この距離なら大丈夫」と本人が思える。
④ 少しずつ距離を戻す
- やり方:③で投げやすくなったら、1歩ずつ距離を変えていく。うまくいく日を積み重ねる。
- 回数:10球ごとに、1歩だけ距離を動かす。うまくいかなければ、前の距離に戻す。
- 親のチェック:うまくいった記憶を増やせているか。失敗で終わらせていないか。
- できているサイン:「昨日より投げられた」が、少しずつ増える。
やりがちなNGの声かけと、正しい方向
よかれと思ってかけた言葉が、逆効果になることがあります。ここは、私が一番お伝えしたいところです。
現場から: 「びびるな」「メンタルを鍛えれば大丈夫」「力むな、楽に投げろ」。これらは、言っても本人はわかっています。むしろ頭を混乱させるだけです。
なぜ逆効果なのか。イップスは、気持ちの弱さが原因ではないからです。
「メンタルの問題」と決めつける声かけは、本人を追いつめ、「悪いイメージ」をさらに強くしてしまいます。
- NG:「びびるな」「気持ちで負けるな」 → 本人はいちばん、なんとかしたいと思っています。責める言葉は、悪いイメージを強めるだけです。まずは「大丈夫、あせらなくていい」と伝えましょう。
- NG:「力むな、楽に投げろ」 → 「力むな」と言われるほど、体は力みます。私は言葉より、①の「体を整える」から入るようにしています。
- NG:あせってフォームを大きく変える → さきほど見たとおり、急なフォーム改造がきっかけになった選手もいます(Aoyama ら, 2021)。まずは、うまくいっていた頃の動きに戻すことから始めます。
私が大切にしているのは、うまくいった記憶を、少しずつ積み重ねることです。あせらせないことが、遠回りのようで近道になると感じています。
専門家に相談する、という選択肢
親として、できることが2つあります。
- 「相談できる先がある」と本人に伝える:スポーツ心理の専門家や、医療機関という選択肢があることを知らせます。
- どうするかは、本人が決める:親は、選択肢を示す役です。無理にすすめず、本人の気持ちを尊重します。
正直にお伝えすると、イップスには「ここまでなら受診」という決まった線引きが、まだありません。研究でもはっきりせず、私自身も明確な基準は持っていません。
だから、無理にどこかへ連れて行くより、選択肢をそっと示してあげるのが、いちばんだと考えています。
なお、引っかかる感じと一緒に、肩・ひじ・手首に痛みがあるときは、話が別です。まず投球を止めて休み、痛みが続くときは整形外科(できればスポーツ整形)で診てもらってください。
イップスと、体の痛みは、分けて考えることが大切です。
フォームを外の目で見てもらうと、次の一歩が見える
ここまで読んで、「うちの子の場合は、どこから直せばいいの?」と思われたかもしれません。
じつは、ここが難しいところです。
- 同じ「投げられない」でも、体の使い方のクセが大きい子もいれば、気持ちの影響が大きい子もいます
- 引っかかる・抜けるといった崩れは、コマ送りでないと見えにくい
- 原因が違えば、戻していく順番も変わります
だからこそ、一度フォームを外の目で見てもらうと、次の一歩がはっきりします。
投Laboは「気合で投げろ」という根性論はとりません。原因を一つに絞り、そこから整えていきます。
投Laboでは、スマホで撮った投球動画を投手専門コーチが分析し、保護者向け+お子様向けの2部構成レポートでお返しします。
※動画分析は、イップスそのものを診断・治療するものではありません。フォームの崩れを外の目で確認し、体の使い方から整え直すための一歩です。
初回の動画分析は無料です。カード情報も要りません。まずはお子さんの投球を、一緒に見てみませんか(→試合で緊張して力を出せない子へ/失敗を引きずらない心の切り替え)。
まとめ
イップスは、気持ちの弱さではありません。体と心がからんだ、研究でも知られる現象です。
私が見てきた範囲では、きっかけは「悪いイメージ」のことが多いです。だから、責める声かけは逆効果になりやすいのです。
まずは「大丈夫、あせらなくていい」。そして体を整え、本人が投げやすい距離から、うまくいく記憶を少しずつ積み重ねる。これが、戻していく土台になります。
今日からの一歩は、お子さんの投球をスマホで1本撮り、「どんなときに崩れるか」を落ち着いて見てあげることです。
あせらず、一緒に見守っていきましょう。
よくある質問
Q. イップスは、放っておけば自然に治りますか?
自然に戻る子もいれば、時間がかかる子もいます。戻り方には個人差があります。
大切なのは、責めないことと、投げやすい距離でうまくいく記憶を積むことです。ただし、症状が長く続く・悪化するときは、医療機関に相談してください。
Q. しばらく投げるのを完全に休ませたほうがいいですか?
一律の正解はありません。投げやすい距離で「投げられた」という感覚を保つことが、助けになる子もいます。
ただし、本人が投げるのをつらがるときや、症状が悪化するときは、無理をさせず、専門家や医療機関に相談してください。気持ちを最優先にしてあげましょう。
Q. コーチや監督に、どう伝えればいいですか?
「気持ちの問題」ではなく、体と心がからんだ現象であることを伝えてください。
そのうえで、しばらく近い距離や少ない球数から戻したい、と相談できると理想的です。責めない環境をつくることが、いちばんの近道です。
Q. きょうだいや友だちと比べてしまいます。よくないですか?
比べる言葉は、できるだけ避けてあげてください。イップスの子は、いちばん本人が焦っています。
比較より、「昨日より投げられたね」と、その子自身の小さな前進に目を向けるほうが力になります。
Q. バッティングや守備は普通なのに、投げるときだけ崩れます。なぜですか?
特定の動作だけに出るのは、イップスの特徴の1つです。だから「投げるときだけ」も、めずらしくありません。
ただ、動きの異常が続く・悪化するときは、一度専門家や医療機関に相談すると安心です。まずは、どの場面で出るかを落ち着いて見てあげてください(→送球が逸れる・悪送球の直し方)。